舞台裏「一遍踊って死んでみな」

執筆のきっかけ
 本作を書いたきっかけは、あとがきに書いてある通りです。
 私はデビューして3年、あの手この手で色々と試してみたものの、突き抜けた大ヒットは出すことができず、「こんだけ面白い(自称)小説でも大ヒットにならないってどういうことだよ……これ以上面白い小説なんて書けねえよチクショウ……」と頭を抱えていました。
 それでヤケクソになった私は「最後に、クッソふざけた自分だけが楽しい歴史小説を書いて終わりにしよう。どうせ誰からも見向きされないだろうし、それを見れば自分の中で諦めがついて、スッキリした気持ちで次に行ける」という気持ちで本作を書きました。

 そんなわけで、そもそも私は本作を同人誌とし、文学フリマ等で売るつもりでした。ところが、ダメ元で文芸社様に完成原稿をお送りしてみたところ、担当編集様が「これはうちから出さねばならぬ」と社内で激推しして下さり、めでたく刊行が決まりました。こんな珍小説すら受け入れる文芸社様の懐の深さには本当に驚くばかりです。感謝しかありません。

 なお、本作を書き始めた時は歴史小説についてヤケクソな気持ちしかなかったのですが、本作を書くことが最高の癒しになったのと、その後、多くの読者様から熱い感想や期待を頂いたことで気持ちが落ち着き、いまは、売れるとか売れないとかはあまり考えず、歴史小説は社会への奉仕だと思って書いていこうと思っています。

裏話
 本作に織り込んだ音楽関係の元ネタは以下の通りです。

Chapter1のタイトル「戦慄の踊り念仏」
 クイーンのデビューアルバムの邦題『戦慄の王女』が元ネタです。

42ページのサブタイトル「魂のさけび」
 キッスの2ndアルバムの邦題『地獄のさけび』が元ネタなので、漢字ではなく平仮名で表記しています。

Chapter2のタイトル「ニュー・ウェーブ・オブ・カマクラ・ブッディズム」
 アイアン・メイデンやデフ・レパードといったバンドが中心となって起こった、1970年代イギリスの音楽ムーブメント「ニュー・ウェイヴ・オブ・ブリティッシュ・ヘヴィメタル(NWOBHM)」が元ネタです。

60ページのサブタイトル「ウェスタン・インヴェイジョン(西方からの刺客)」
 60年代のアメリカで、ビートルズやローリング・ストーンズといったイギリスのロックバンドがアメリカを席巻した現象「ブリティッシュ・インヴェイジョン」が元ネタです。

61ページ「ゼン・リヴァイヴァル」
 50年代末~60年代のアメリカで、アメリカ南部の片田舎で人知れず演奏活動をしていた古老のブルースマンたちを探し出し、レコードを録音して発表するという活動が盛んになり、それによってブルースが「古くて新しい音楽」として若者たちの間で脚光を浴びるという現象がありました。後にロックンロールが誕生する土台となったこのムーブメントのことを「ブルース・リヴァイヴァル」と呼ぶのですが、それが元ネタです。

66ページ「サーチ・アンド・デストロイ(見つけ次第破壊せよ)」
 「ゴッドファーザー・オブ・パンク」と呼ばれたイギー・ポップが1973年に発表した同名曲が元ネタです。あと洋楽ネタではないですが、日蓮の異名を「久遠の聖戦士」としたのは、日蓮宗の総本山が身延山久遠寺であることにちなんでいます。

97ページ「時宗がやってくる」
 1964年のビートルズの初主演映画『ハード・デイズ・ナイト』は当時、英語読めない日本人には理解できんだろうということで『ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!』という意味不明な超絶クソダサ邦題がつけられていたのですが、それが元ネタです。

99ページ「勝手にしやがれ」
 1977年のセックス・ピストルズのデビューアルバム『Never Mind the Bollocks』は、直訳すると『くだらない事は気にすんな』ですが『勝手にしやがれ!!』という邦題がつけられており、それが元ネタです。沢田研二ではありません。

126ページのサブタイトル「一遍 vs 鎌倉幕府」
 私が好きなワイルドハーツというバンドに『アース vs ワイルドハーツ』というアルバムがあり、それが元ネタです。そこまで有名なバンドやアルバムではないので、これは完全に私の趣味です。

141ページのサブタイトル「幻惑と混乱」
 レッド・ツェッペリンの代表曲「Dazed and Confused(幻惑されて)」が元ネタです。

156ページ「仏教界いちの働き者」
 ファンクの帝王ジェームス・ブラウンの二つ名「ショウビズ界一の働き者(ザ・ハーデスト・ワーキング・マン・イン・ショウ・ビジネス)」が元ネタです。ジェームス・ブラウンのライブでは最初にMCが長々と口上を述べて彼を紹介した後にステージに招き入れるのですが、一遍をステージ上に呼ぶときのヒロの口上はそれを意識しています。

173ページ「第一期踊り念仏」
 元ネタはディープ・パープルですね。長い歴史の中でしょっちゅうメンバーが入れ替わっていて、2024年の時点ではもう第10期までいってるみたいです。

小ネタ
 134ページの北条時宗と一遍の問答で
「すべて阿弥陀で解決できるならどんなに楽か! 世の中はそう簡単ではないッ!」
「すべて阿弥陀で解決するよりほかに、やれることが無い者たちもいるんですよッ!」
というのがあります。
 時宗と一遍の正反対の生き様が端的に表れた、自分でも屈指のお気に入りのセリフなのですが、ここのセリフはわざと「あみだくじで解決する」のようにも読めるようにしました。
 真剣なやり取りだけど真剣にやるとなんか重いなー、という理由だけで入れた、ただのおふざけです。

 それから229ページに「思い出せ、一遍上人はなんと言った?」というヒロの台詞がありますが、これは、筋肉少女帯の「221B戦記」という曲の歌詞から発想を得ています。このシーンを書いてる時に、なんとなくこの歌の情景が頭に浮かんでました。