舞台裏「なさけの左甚五郎」

執筆のきっかけ
 私はこれまで一冊で完結する小説しか書いてこなかったのですが、前作の『みぎての左甚五郎』で初めて、シリーズ物の構想をもって書き始めました。
 最初は、甚五郎と美弥の関係性を主軸に置きながら、甚五郎が諸国を巡っていろんな悪を懲らしめていく一話完結型の話を、水戸黄門のようにエンドレスで続けていけたらと思っていました。
 ところが、いざ具体的に二巻目のプロットを考え始めると、彫った物が動き出して悪人を懲らしめる能力って、実は思った以上に使い勝手が悪い。
 それで「あれ? これじゃ悪を懲らしめる方法が早々にネタ切れになるぞ?」と気づき、前作で種をまいた設定を全部回収して、まあ全四巻くらいにまとめようかなと皮算用していたところ、営業サイドから「全三巻にしてもらえるとボリューム的には売りやすい」というご意見を頂きまして――

 そんなわけで本シリーズは、エンドレス→全四巻→全三巻と、最初の構想からどんどんコンパクトになっていったわけですが、結果としてそれが、多少無理してでも余計なものを削ぎ落とすことにつながり、おかげで伝えたいポイントが明確になって、中だるみせず濃厚なストーリーになってくれたように思います。
 ちなみに、今回の参考資料には本作の初期プロットを掲載しました。これに対して編集者様から色々なご指摘を頂いて修正し、現在の物語になったわけですが、小説家が最初に思いつく話がいかに退屈で、それが編集者様のご指摘によってどれだけ改善されるのか、よくわかると思いますのでぜひご覧ください。

 三部作の完結編『めおとの左甚五郎』は、実はもう原稿自体は終わっていて2026年10月発売予定です。本作の最後のこじれまくった状況から話をちゃんと全部きれいに畳んだうえで、めちゃめちゃ泣ける最高の内容になっておりますので、発売まで楽しみにお待ちください。

裏話
 本作のタイトルを、私は単純に『みぎての左甚五郎2』とするつもりでした。
 しかし、そのようなタイトルだと1巻を読んでない人の視界から完全に消えてしまうので、最近のシリーズ物って、例えば1巻が『きたきた捕物帳』であれば、2巻以降は『子宝船 きたきた捕物帳2』『気の毒ばたらき きたきた捕物帳3』といったような形で、サブタイトルのほうを前面に出す方式が主流になっているんですね。
 私はそんなこともまったく知らず、素人丸出しで一作目のタイトルを『みぎての左甚五郎』としてしまいました。

 それで、タイトルが『みぎての左甚五郎2』では販売的に難があるとのご指摘を受け、急遽サブタイトルを考えることになったわけですが、私この「1巻だけサブタイトル無し、2巻以降サブタイトル有り」という方式が、どうしても好きになれないんですね。「一覧表にした時、なんか統一感が崩れて気持ち悪い」という、本当にしょうもない理由で。
 一方で私は、例えばスター・ウォーズの『新たなる希望』『帝国の逆襲』『ジェダイの帰還』みたいなタイトルのつけ方もどうかと思っていて、あれって初見の人に対して、まずどこかで下調べして『新たなる希望』が1作目であることを知ったうえで見ることを強いているわけで、非常に不親切だと思うのです。誤って『帝国の逆襲』のほうを先に見てしまうという事故の可能性を考えれば、シリーズ物にはやっぱり番号を振ったほうがいい。

 というわけで私は、「一覧にした時の統一感が崩れる」のと「どの順番で読めばいいのか読者が迷う」のどちらが嫌かという究極の二択を前に煩悶し、最終的に「全3巻の短いシリーズだし、巻末のあらすじと帯に続編であることを明記すれば、読者の混乱は防げるはず」という言い訳とともに、タイトル番号を振らない後者の方式を選びました。
 一作目と全く違うタイトルだと、そもそも続編だと気づいてもらえない恐れがありますが、ちょうど宮島未奈さんの『成瀬は天下を取りに行く』『成瀬は信じた道をいく』『成瀬は都を駆けぬける』という大ヒット3部作の例があったので、じゃあ本作も『みぎての左甚五郎』『なさけの左甚五郎』『めおとの左甚五郎』とタイトルの末尾を統一することでシリーズ物であることを示そう、ということでようやくタイトルが決まりました。

 そして今回書いてみてつくづく思いましたが、私は飽きっぽいので、シリーズ物あんま向いてないですね。
 次への引きを残さずに毎回一冊でスパッと全部きれいに終わって、それでもし、登場人物たちのその後が見たいという声が大きかったら、初見の方でも楽しめるような、一つの作品としても成立する続編を考えるというのが、私の性格的にも、収入面でのモチベーション的にも(2巻以降が1巻より売れることはまずないので)合っているような気がしました。

小ネタ
 本作の第三話「虚実央昇龍」は、ご存じの方は一発で気づいたと思いますが、芥川龍之介『竜』のオマージュとなっております。登場する宿屋の名前が「芥子屋」という不自然な名前なのはそのためです。『竜』は青空文庫で無料で公開されている短編で、すぐ読めますのでぜひ読み比べてみてください。

 唐突ですが、『ゴルゴ13』には時々、ゴルゴがほとんど登場しない回というのがあります。
 登場人物たちがゴルゴの存在や噂に翻弄され、勝手に大騒ぎして色々な事件が起こるのですが、その間はゴルゴ自身は一度も出てこなくて、そして最後に一コマだけチラッとゴルゴが登場してその回の主人公の眉間を打ち抜き、それで話が終わるというタイプの回です。
 私は「そういう作劇って面白いな、一度でいいから自分もやってみたいな」と以前から思っていて、それがちょうどこの話とぴったりハマったので試してみました。上手くいったかどうかは分かりませんが、書いてる私は本当に楽しかったので、皆様もお楽しみいただけたら幸いです。

 それから、第二話「荒神荼枳尼」で登場する真面目な若い手代、吾助が働く諏訪高島藩の御用商人「南潟屋」の屋号は、諏訪といえば諏訪大社なので、諏訪大社の祭神、建御名方命から拝借しております。