執筆のきっかけ
前作「義経じゃないほうの源平合戦」が、大河ドラマ効果もあって比較的反応もよかったことで味を占めた私は「やはり、誰もが知っている事件や人物について、誰も知らない視点から書くというスタイルがよさそうだ、あと大河ドラマには便乗するに限る」と考えました。
それで前作同様、誰もが知っている事件を題材にすることにしました。
ちょうど翌年の大河ドラマは「どうする家康」だったので、家康とも関連があってネタにできそうな事件を探したわけですが、その時に候補の一つとして挙がったのが桶狭間の戦いです。でも、ただ普通に桶狭間を書くだけじゃつまらない。何か一ひねりできないだろうか……と考えていた時にふと頭に浮かんだのが、2020年にTwitterで大バズリした漫画「100日後に死ぬワニ」でした。
「100日後に死ぬワニ」は、最終回でワニが死んだ直後、まだ皆の気持ちの整理がついていない時に大々的にグッズ展開などを始めてしまったことで「所詮は商売かよ」という炎上騒ぎになり、急速にブームが冷めていったのをよく覚えていますが、私あの漫画の「これ本当にワニは死ぬんだろうか?」とドキドキしながら毎日1話ずつ読んでいくという唯一無二の読書体験って、本当に凄かったと思うんですね。
それで、ああいう手法を自分もやれないかなぁ……と漠然と思っていたところに桶狭間の戦いが次回作の候補に挙がり、そこでふと
「あれ? 直前まで自分が死ぬと思っていなかったという点で、今川義元とワニ同じじゃね?」
という謎の新発見が降ってきて、「じゃあ、今川義元で『100日後に死ぬワニ』をやってみよう!」という、何を言ってんだかさっぱりわからない謎の構想が爆誕したわけです。
裏話
前作に引き続き、本作も大河ドラマへの便乗を狙った作品ですので、私は「どうする家康」のオンエアをドキドキしながら待ちました。今川義元を演じるのは野村萬斎。家康の幼少期から描き始めたら、たぶん義元は2月頃までは重要人物として登場するはず。その後で満を持して4月に本作が発売されれば相乗効果で……と皮算用していたら、第1話がまさかの桶狭間で、今川義元瞬殺!
まさかの出オチ!と愕然としましたが、結局その後回想シーンで義元は何度も出てきてくれて、本作の義元に比較的近い感じのしっかりした人物として描かれていたのでよかったです。
それから、本作が発売されて3か月が経った2023年7月、取次大手トーハンのYoutubeチャンネル「出版区/SHUPPUNK」の企画「本屋、ついて行ってイイですか?#17」で、「水曜どうでしょう」の藤村D&嬉野コンビがなんと本作をお買い上げしてくれるという超ラッキーな出来事がありました。
私は「水曜どうでしょう」好きなのでめちゃくちゃ嬉しかったのですが、さらにこれを見た文芸社営業部が藤村Dに突撃をかけ、その後に開催された「秋の白蔵まつり」用のオビに藤村Dに紹介文を書いて頂くという夢のようなことが起きまして、もうそれだけで小説書いてて良かったです……
小ネタ
本作は「100日後に死ぬワニ」の手法で今川義元を書いてみるという、全編がまるごと小ネタみたいな小説なので細かい小ネタは仕込んでいません。
各章の最後の「死まであと〇〇年」も「100日後に死ぬワニ」のやり方をそのまま使ったのですが、「宇宙戦艦ヤマトみたい」というツッコミがけっこうあって、言われてみればそうだなと発売後に初めて気づきました。