ダメ親のすすめ 第8回

第8回:番外編 なのになぜあなたは子供を作ったの

前回の次回予告で書きましたが、今回は番外編。
当ブログって育児が大変だ大変だとあまりにも多く書きすぎてしまっているので、これを読んだ若い方達が「子育てってこんなに大変なのか、だったら俺子供いらないや」と思ってしまうのではないかと急に不安になってきました。

私は、少子化の大きな原因の一つには「子持ちの親世代が、人の親になる事の素晴らしさを若い人達に十分に伝えていない」事があると思っています。

現在、幼稚園から大学までの学費は、全て公立で1000万円強、全て私立で2000万円以上かかります。これに食費や生活費を加味して、だいたい生命保険では死亡時に約3000万円が支払われるプランを勧められる事が多いです。
今の若い方々は、幼い頃から就職難だの給料が増えないだのと、散々暗い事を言われている厳しい社会の中で育ってきています。そのため、私のような30代以上の世代よりも格段にシビアな現実感覚を持っているはずです。そんな若い方々が、子供育てるのには3000万円かかると言われた時、

「私、そんなの払えるかなぁ?
っつーか子供って、そんな大金払ってまで欲しいと思う?私は微妙・・・」
と思うのはごく当然の事だと思うのです。それに対して

「いざ生まれたら、やっぱり自分の子供は最高にかわいいんだよ。この感じは生まれないと分からないよ」だの
「ホラ赤ちゃんかわいいよね?純粋で無垢で、あなたも欲しいと思ってきたでしょ?」だの
「子供欲しくないなんて、今の若い人は冷たいねぇ。子供の素晴らしさはお金じゃ量れないんだよ」だの

そんなフワッフワした説明でポンと3000万円払いますかあなたは?

たぶん、若い方が感じている不安感と、年上世代の回答が全然噛み合ってないんですよ。これは、子供を持つ事のメリットを「愛」で語ろうとするからいけないんです。子供を授かるという事は人生の一大事。若い方には、ちゃんと納得して自分の意志で選択した上で親になって欲しいし、そのためには「愛」以外の現実的な側面で子供を育てる事の意味を語らないと、今の若い方は納得してくれないと私は考えます。

てなわけで、ここでご紹介するのは私の実体験談。人生に対してちょっと暗い気持ちになる話です。
でもこれは、30歳を過ぎた頃に間違いなく私が感じた嘘のない感情です。

もちろん私の個人的体験と意見なので、世の全ての親が同じ考えなどとは思っていないし、これを読んでいる10代20代の方が30歳を過ぎた頃に同じ事を感じるかどうかは分かりません。でも、一つの体験談として一緒に想像してみてください。そこから「子供を授かるってどういう事なんだろう?」という事について、自分なりの意見を作っていただけたら嬉しいと思います。

「なのになぜ、あなたは子供を作ったの?」

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もう10年以上昔ですが、就職して自分の給料をもらった時に私は、格段に世界が広がる感覚がしました。
それまでは学生だったので、自分で勝手に使えるのはバイトで得た限られた金だけ。親の家に住まわしてもらい、学校だって親に学費を出してもらっている以上、自分勝手にやめるとも言えません。
でも就職したらもう、自分の金で何をやってもいいんです。他人に迷惑さえかけなければ。

私はまず車を買いました。それも実用性ほぼゼロの、115万円の中古のロードスター。
「こんな無駄な事やっても、もう誰も怒らないんだ!だって損するの自分だし、自分が納得すればそれでいいんだ!」というごく当たり前の事を実感したのは新鮮な感動でした。

そして29歳で結婚。彼女のご両親に挨拶し、新しいアパートを借りて家電や家具一式を買い揃え、結婚指輪や結婚式の費用を払い、ご祝儀を頂き、100万円以上のお金が平気で財布からポンポンと出入りしていきます。

31歳の時にマンションを買いました。自分の体に生命保険がかかり、私は死んだらお金がもらえる体になりました。ン千万円という自分の人生で史上最高額の買い物です。最初に払う頭金(手付金)だけでもすでに自分の買い物史上で圧倒的最高額なのに、さらに残額を25年かけて支払っていくのです。

・・・で。
年齢を重ねるにつれて車→結婚→家と出費の額がだんだんとスケールアップし、その都度ドキドキしながら手探りで乗り越えてきたわけですが、30代半ばになってこの手のイベントを一通り済ませてしまうと、そこから先はあまり怖さやドキドキが無くなってくるんですね人生って。

多少高い買い物をしても、家買ったのと比べたら全然楽勝だって思ってしまうし、大事な仕事や大きなイベントも、プロポーズした時・彼女の実家に挨拶に行った時のドキドキと比べたら全然大したことない。
それは経験を積んで人間的に強くなったとも言えるので、とても良い事ではあるんですが、家を買った半年後くらいにふと、

あれ?俺もうやる事ないな。

と思って薄ら寒い気持ちになったんです。
ここから先の人生で、結婚や家を買うこと以上にドキドキする経験って一体何があるでしょうか?

私は無責任な性格なので、仕事でのお金のやり取りは心のどこかに「しょせん失敗しても会社の金だよな、自分が破産するわけでもないし」という部分があります。もちろん失敗しないよう最善の努力はしていますが、ドキドキするかと言われたら結婚や家を買った時を超える事はないと思います。
自分でベンチャー起こしたり、今から会社辞めてミュージシャン目指すとか、そういうのがあれば別ですが、私にその予定はありません。
転勤や海外赴任があれば、かなりドキドキすると思います。でもこれも結婚や家を買った時よりもドキドキするかと言われたら微妙でしょう。

それともう一つ、やる事ないなと思ってしまう理由が「成長の鈍化」です。
人間、死ぬ瞬間まで成長はし続けます。画家の葛飾北斎は90歳近くまで生きて、それでも死ぬ寸前に「あと私が5年生きられたら、私の絵は神の域まで達したのになぁ・・・」と嘆いたといいます。勉強し続ける限り、人間の成長は止まりません。

ただ、成長するスピードは確実に落ちます。
あと「技術」は成長しますが、体力や記憶力などの「基礎能力」は成長しません。
また、すでに持っている技術・能力を伸ばす事は可能ですが、ゼロから新しい技術を身につける事はかなり難しくなってきます。
これはもう生物として仕方の無い事です。

結果として、今までやってきた事を完全に捨てて新しい道に移る事が難しくなるので、今の自分がやっている事から、未来の自分がある程度想像できるようになります。
あなたは学校の進路指導で「10年後の自分を想像してみよう、それに近づくにはどうするか考えてみよう」ってやりませんでしたか?私は学生の時、 正直「そんなの想像するだけ時間の無駄じゃん!だって未来なんて何があるか分からないんだし!」と思ってました。

でも、今はかなり克明に想像できます。10年後の私は47歳で、きっと今の会社でこういう地位にいて、週末は自転車に乗り絵を描いたり写真撮ったりして楽しんでいるはずです。それ以外の姿が想像つきません。そして、その具体的な将来像に向けて自分を寄せていくだけなんですよ。着実で失敗もありませんが、そこにドキドキはありません。

かくして、私は32歳にして、
「俺これから先、どんな大事件が起こっても多分なんとか乗り越えられるだろうし、もうここから先で劇的に成長して人生が変わる可能性も低いし、あと何やる事あるんだろう?趣味?」と感じて何となく憂鬱になっていたんです。

そんな時に突如何の前触れもなく天から降ってきた私の息子と娘。
その瞬間に、ある程度予想できていた私の人生に再び、全く予想がつかない部分が大量に生まれたのです。

私はきっと10年後も変わらないでしょう。でもその私のすぐ隣にいる2歳と0歳の子供たちが12歳と10歳になった時に、どうなっているかなんて全く分かりません。私は親として、その人生が素晴らしいものになるよう手伝いをする責任があります。

あぁ、俺は親として一体何をすればいいんだろう?自分1人だったら、どんな大事件が起こっても多分なんとか乗り越えられる自信はあったけど、子供2人抱えてたら話は別。乗り越えられないかもしれない、さぁどうしよう?

子供が生まれるまでは人生に余裕かましていた自分が恥ずかしくなるほど、不安定で自信のない日々に逆戻りです。
でも、そういう心配だらけの日々、育児に追われて必死に暮らす日々を戦いながら、ふと思うのは

「やらなきゃいけない事があるって、たぶん幸せなんだな」という充実感と
「あぁ、俺、生きてる」という達成感。

苦しいけど、幸せなんです。
そしてそれは、子供がもたらしてくれたものなんです私の場合。(何度も言いますが、他の人はどうか分かりません)

ちょっと余談ですが、それで私、ようやくここで長年の疑問に決着がつきました。
私は小さい頃、「何で大人って自分では何一つ努力しないのに、子供にばっかり努力しろ努力しろと言って、勝手な期待をおっかぶせてくるんだろう?そんなに何かになって欲しいなら、今からでも遅くないから自分が努力してなればいいのに」とずっと不満に思ってました。その理由が今やっと納得できたんですね。

親って、先ほど述べたとおり自分一人の人生にはもう怖い物はあんまり無いし、正念場はあらかた経験済みでもうドキドキもないし、未来も想像できてしまう切ない存在なんです。だから、どうしても不確定要素が多くてドキドキする部分に手を出したくなるんです。親は、子供によって自分の人生をもう一度やり直し ているんです。それが「親の期待」の正体です。

もちろんそんな「親の期待」なんてクソ以下の代物であって、子供が親の期待に沿う必要は全く無いし、私は子供に勝手な期待を押し付けるような親には絶対になりたくありません。親が自分の人生を全力で生き、必死に楽しんでいれば、そもそも子供の人生に手を出そうという気持ちにもならず、そんなヒマもないはず。
「俺は俺で勝手に楽しむから、お前らも勝手に自分のやりたい事やってろ。でも自分の尻は自分で拭けよ。」という親になりたいと私は思います。

以上、これが私にとっての「子供がいて良かったと思う理由」です。
もちろん、世の中には一生独身の方、結婚しても子供の居ない方もたくさんいます。上の説明で「だから子供が居ない人は不幸である」と言いたいつもりではないという点はお断りしておきます。子供が居ないなら、居ないなりの幸せや楽しさがあります。

私が言いたいのは、子供がいると、自分から探さなくても極上のドキドキが自動的に向こうから降ってきてくれるという事なんです。ヒマだとすぐに人生をサボってしまう私としては、その点がありがたいなぁ、というだけの話。子供以外にもいくらでも刺激的な人生の送り方はあります。子供だけが幸せではありません。

最後に一つだけ10代20代の方にお伝えしておきたいのは、私が「人生つまらないなぁ」と感じたのは上記の通り32歳の時です。でも、32歳で「人生つ まらないなぁ」と感じて、そこから子供が欲しいなぁと思ったら、そこからかなり急がないといけない。私は29歳で結婚して33歳で子供生まれるまで4年もかかってるし、人間の妊娠率って想像以上に低いですよ。

一度きりの人生、若さは決して後戻りはできないので「欲しくなったらその時考えよう」とか悠長な事は考えない方がいいと思います。若い皆様が、自分の人生にとって結婚とは何か?結婚相手とは何か?子供とは何か?について自分の頭で真剣に考え、自分なりの結論を出す。この記事が、その考える時の一つの材料となってくれたら本当に嬉しいです。

次回予告:「3歳まではお母さんと一緒に(前編)」

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